ネパールの人たちによってスピンドルで手紡ぎされたアローとヘンプの糸は
自然な色あいと手紡ぎならではの味わいのある大変魅力的な糸です。
ネパールでこれらの糸と出会い、現在私は殆んどの作品をこの糸を使って織っています。
糸の太さも色も撚りまちまちで、それほど扱いやすい糸ではありませんが
その独特の素朴な風合いは飽きることがありません。
アローはイラクサ科の植物で、ラミー(Ramie)、苧麻(ちょま)の仲間になります。
日本では苧麻はからむし、しなあさ、まお、などともいいます。苧麻を使った織物は
上布(じょうふ)と呼ばれ、夏の着尺として賞用されています。
ところで、「イラクサ」というとアンデルセンのこの物語を思い出す方も多いのではないでしょうか。

「野の白鳥」
エリサという少女が、継母によって白鳥に変えられてしまった11名の兄弟の王子の魔法を解くため、
火ぶくれになりながらもイラクサを摘み取り、紡いで糸にして長袖の上着を編む・・という物語です。
エリザの手足をイラクサが火ぶくれにしてしまったように、ネパールのアローにも細かいとげのような毛が
ついていて、触ると痛痒くなります。
私も以前ネパールでトレッキング最中に、アローを知らずに触ってしまい、
2,3時間手がじんじん痺れてしまった・・という経験があります。
ネパールの人たちは採取のとき、手に布を巻いたりもするようですが、
素手に近い状態で、一度に何百本も刈り取るわけですから、本当にたくましい!と思います
ちなみに、糸にした状態のものにはもうかゆみをおこさせる成分は含まれていませんので
ご安心ください。
アローについて
アロー(allo, sisunu 英名Himalayan giant nettle)
アローをスピンドルで紡ぐマーガル族の女性
アローは主にネパール北部の標高1,200〜3,000mの高地に生える巨大なイラクサ(ネトル)の一種で
高さは3m、茎の直径は4cmにも育ち、葉、茎、花と全体に刺に覆われています。
12月に緑色の小さな花を咲かせ、4月から6月に発芽します。
千年以上以前から、ヒマラヤ中部山岳地帯の民族、マーガル族、タマン族、グルン族、
そして特にライ族によって、衣料、マット、袋、魚網、ロープ等そして食料に
必要とされてきました。
土地ごとに違いはあるようですが、アローの収穫から糸にするまでのにはだいたい下のような
根気の要る、非常に長い過程があります。(織は伝統的にはいざり機で織られています)
■□■アローの収穫■□■
アローの収穫はモンスーンの終りの8月から12月まで。村から離れた(ヒルも沢山いるジャングルの)
アローの採取地にに男女が数日かけて採取に行きます。
成長した太い茎を、新たに発芽できるよう地面から15cm 位の所で切ります。
何百本という茎を刈り取り、茎の外側の皮と内側をその場で分け、皮のほうを持ちかえります。
■□■繊維の採り方■□■
採取されたアローの皮は、採れたてのものはそのまま、乾燥したものは水に浸しておいてから、
木灰を入れた湯(アルカリ)で2〜4時間炊きます。
柔らかくなった繊維をを木槌や石で叩き、手作業で繊維と余分なものとに分けながら
よく水洗します。
その後繊維を柔らかく紡ぎやすくするために雲母の土や粘性の白土などを水で溶いたものをまぶし、
繊維を吊るして日に乾かします。
乾燥してから雲母を石などに叩きつけて落とし、繊維を広げると紡ぐことが出来ます。
■□■糸紡ぎ■□■
糸紡ぎには竹・木製のスピンドル(紡錘)が使われます。スピンドルは長さが2〜30cmほどで
小さく軽く、持ち運びしやすいので、腰に繊維を巻き付け、歩きながらや農作業の合間
にも紡がれます。糸はだいたいZ撚で紡がれるようです。
■□■その他■□■
アローは食用として、若芽や若葉はほうれん草のように料理されて貴重なビタミン源となります。
また保存食や薬の原料にもなり、葉を煎じたものは頭痛や関節痛の処置に使われ、発熱にも効き目
があると言われています。
繊維採取に使われた煮汁から青い染料が取れること、
繊維を採取したあとに残る茎の内側は製紙に使えること、アローの種は10〜12%の油を含むので石鹸やその他、
油から作られる製品に用いられることも明らかになっています。
ヘンプについてもうちょっと詳しく・・
ヘンプ(hemp, 大麻)
ヘンプ(大麻)はクワ科の一年草で、ネパールでは100日ほどで4mくらいに成長します。
標高や土壌、気候の条件を問わず、ネパールの広い範囲で見られます。
ヘンプは主に三種類の用途で使われています。
一つめは茎から採れる白い靭皮繊維の利用、二つ目は種からの油の採取、
そして薬用または麻薬としての葉や花などの利用です。
特に葉には、鎮静効果、麻酔効果、利尿効果、消化促進などの効用があるといわれます。
それぞれの用途により、適した状態が異なります。
品質のよい繊維が採れるのは、温帯湿潤気候の丘陵地帯のものといわれています。
またヘンプは雌株と雄株に分かれており、雄株が繊維を採るのに適しています。
油を採る種は雌株からのみ採取できます。
麻薬としての利用は雌雄両方の葉と花が使われます。
■□■繊維の採り方■□■
ネパールのある地域でのヘンプの繊維の採り方は以下の通りです。
採取の時期は8月。刈り取った後、茎を3〜5日ほど乾燥させます。
そして流水か、ためた水の中に腐る寸前まで1〜2日ほど浸します。
繊維部分は歯を使って引き出し、ねじって、綺麗に引っ張ります。
2〜3日間日に干してから、長いヘラで、繊維を離れやすく柔らかくするために
叩きます。その後、撚りをかけてから糸を木灰を入れた水で半時間ほど煮沸し、
よく水洗して乾かします。
一本の茎からは10g程度しか繊維を取り出すことが出来ません。
資料:"Nepalese Textiles" Susi Dunsmore
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